もし街で私に近づいて、「ねえ、ベン、1990年代に作られた最高の時計は何?」と尋ねられたなら、私は迷わずこう答えるだろう。「A.ランゲ&ゾーネのトゥールビヨン“プール・ル・メリット”だ」と。そしてさらに、「ねえ、ベン、君が実際につけてみたい、あるいは所有したいトゥールビヨンウォッチがあるとしたらどれ?」と聞かれたとしても、やはり私はこう答えるだろう。「A.ランゲ&ゾーネのトゥールビヨン“プール・ル・メリット”だ」と。
ランゲの再出発の後光がさしたのは、まさにトゥールビヨン“プール・ル・メリット”であった。
確かに、私はこの時計がたまらなく好きだ。多くの人がPLM(プール・ル・メリット)と呼ぶこの時計は、1994年に発表されたランゲの初期コレクションの一部であり、ランゲ1がその後さらに進化を遂げたことは否定できないものの、純粋なトゥールビヨンに関して言えば、オリジナルのPLMほど時計マニア(つまり、私のような“マニア”)に訴えかけるモデルはまだ出ていないように思う。オリジナルのフュゼチェーン機構、38.5mmのケース径、完璧な対称性。そしてドイツ時計の最高峰としての系譜に加え、ジュリオ・パピ(Giulio Papi)やルノー・エ・パピ(Renaud et Papi)でキャリアを積んだ、歴史的なスイスの名職人たちとのつながりもある。実際、ウォルター・ランゲ(Walter Lange)自身も特別な機会にのみこの時計を身につけるほどだった。私にとって、これ以上の時計はない。
だが、スーパーコピー時計 代引き実はこのPLMが今あまり注目されていないのだ。今週から来週にかけてジュネーブで3本のPLMが出品される予定であるため、皆にもぜひ知っておいてもらいたい。
A.ランゲ&ゾーネの“プール・ル・メリット”シリーズ。
まず、出品される3本の時計について触れる前に、“プール・ル・メリット”がランゲにおいてどういう存在かを理解しておくことが重要だ。そしてそれを知るには、2017年のHODINKEEに掲載されたこの記事以上の資料はないだろう。歴史的に見れば、PLMコレクションの時計はランゲのコレクターたちにとってまさに“山の頂上”とされてきた。だが最近ではブランド自身も新しい世代の購入者も、このコレクションに以前ほど焦点を当てていないように思う。
それでも、オリジナルのトゥールビヨンPLMは、私にとって現代最高のトゥールビヨンだ(あるいは、少なくともトップ2には入るだろう。もうひとつはもちろん、ジュルヌの“トゥールビヨン・スヴラン”だ。ちなみにこの2本の時計は、2016年に書いた“トゥールビヨンを嫌う男性(または女性)のための7つのトゥールビヨン”という記事でも大きく取り上げている)。しかし、この時計はかつてのような魅力を感じさせなくなってきているように思う。正直なところ、PLMは長年にわたって私の“究極の時計”であり続けてきた。それはおそらく2013年ごろからだろうし、それは今も変わっていない。実際、何度も購入に近づいたが、さまざまな理由でそのたびに指をすり抜けた。
“1週間で3本も出品されるなら、いいPLMを見つけるのはそんなに難しくないんじゃないか?”と思うかもしれないが、そこには理由がある。6カ月前まで、最も一般的なイエローゴールド以外のトゥールビヨンPLMが市場に出回ることは極めてまれだった。私の見立てでは、2~3年に1回見るか見ないかの頻度であり、ほとんど手放す人がいなかったのだ。それが6カ月ほど前から、いくつかの個体が姿を見せ始めた。ここニューヨークのChrono24に、オリジナルオーナーが所有するプラチナモデルが出品されたのを発見し、売主と話をしたものの、提示価格があまりに高すぎた。さらに同じころ、ACM(A Collected Man)の友人たちもこの時計をリストに加えていた。そしてまた、ある有名なドイツのディーラーが3本目のプラチナPLMを販売リストに載せたのだ! 15年間この時計に注目してきたが、同時に3本のプラチナPLMが出品されるなんて、信じられなかった。にもかかわらず、それらは市場に出たまま長いあいだ動かなかった。最終的には売れたと思われるが、どれも40万ドル(日本円で約6160万円)以上、一部は50万ドル(日本円で約7700万円)以上という価格だった。売主に話を聞くとそれが問題だったのだ。購入希望者はいたが、売主が期待する価格帯には届かなかったのである。
私は混乱した。私の世代のランゲ愛好家にとって、PLMはランゲの王者だ! 友人であり同僚であり、次世代のランゲファンを代表する存在だと思っているHODINKEEのタンタン・ワンにメッセージを送った。彼のPLMへの反応は? “うーん、まあクールだとは思うけど”というものだった。彼にとっての興味は、むしろ今のランゲにあるらしい。ブランドの過去を尊重しつつ、未来へと進んでいくランゲとともに歩むことに重きを置いているようだ。
ブランド誕生30周年を記念した新作、ランゲ1 オニキスダイヤル。
“僕のような若いコレクターには、最近のランゲ1 オニキスダイヤルのような新作が、ランゲの歴史の一部に自分も加わっていると感じさせてくれる。オリジナルに対する敬意を感じつつも、異なるテイストがあるものを製作してくれると、ブランドの“黄金時代”を逃したという疎外感もなくなるし、ただブランドをコレクションするために現行品を買わなくても済む気がするんだ”と彼は語る。
タンタンのように、歴史的なモデル、たとえば希少な宝石セットの作品やイエロージャケット、初期のクローズドケースバック仕様のランゲ1などに興味を示さない現代のランゲ購入者は少なくない。だが私に言わせれば、それらのモデルもトゥールビヨンPLMも、まだまだこれから評価が高まっていくと思っている。
希少なランゲ トゥールビヨン“プール・ル・メリット”が3本、同じ街、同じ週に出品される
素晴らしい時計、特にランゲの時計が売りに出されていることを皆に知らせるのは、この上ない喜びだ。5年前、私は最高のランゲ1が3本販売されていると紹介したが、今回は最高のトゥールビヨンランゲが3本も出品されていることを伝えられることがうれしい。しかもすべてがオリジナルの“プール・ル・メリット”であり、最も一般的なYG製シルバーダイヤルは1本も含まれていない。実際には、異なる金属とダイヤルカラーの3本がそろっている。こんなラインナップがそろうのは前代未聞だ。
プラチナ製のトゥールビヨン“プール・ル・メリット” シルバーダイヤル(No.43/50)
では今回出品される時計について見ていこう。私が一番欲しくて、いつか手に入れたいと心から思っているPLMのバージョンを挙げるなら、このモデルだ。本作はプラチナケースにシンプルなシルバーダイヤルを備えたモデルで、50本限定で製造されたものだ。YGに次いで比較的流通しているモデルだが、少なくとも歴史的には市場に出回ることがきわめて少ない。というのも、これら50本は資金力のあるコレクターたちの奥深いコレクションに収まっており、市場に姿を現すことは何年もなかった。たとえウェブサイトに掲載されたとしても、即座に売れてしまう。今回サザビーズに出品されているのは、50本ある内の43番目で、フルセットが揃っているようだ(これは必ずしも当たり前ではない)。ただ保証書がサイン入りか未記入かについてはまだ確認していない。ランゲのセットでは、この点が重要な違いをもたらすことがあるようだ。推定価格は25万~50万スイスフラン(日本円で約4390万~8785万円)。詳細はこちらから。
ピンクゴールド製のトゥールビヨン“プール・ル・メリット” ブラックダイヤル(No.120/150)
サザビーズ・ジュネーブに出品されるもうひとつのモデルが、このブラックダイヤルを備えたPG仕様のPLMだ。特別なPLMのなかでは比較的見かけることが多いバージョンであり、私にとってはYGより上位、プラチナには一歩及ばない位置にある。とはいえ、その希少性は際立っており(プラチナが50本に対してこちらは24本)、サザビーズでは未記入の証明書とともにオリジナルのタグなど、多彩な付属品が揃った状態で提供される。推定価格は15万〜30万スイスフラン(日本円で約2635万~5270万円)。詳細はこちらから。
ホワイトゴールド製のトゥールビヨン“プール・ル・メリット” ブルーダイヤル(No. 102/150)
最後に、サザビーズとは別の会場であるフィリップスが、もう1本の希少なトゥールビヨンPLMを出品した。この個体(150本中102番)はWGにブルーダイヤルを備えており、19本のみ製造された特別なモデルだ(20本目のWG製PLMはブラックダイヤル仕様で存在する)。そのため、このWG×ブルーダイヤルはPLMのなかでも特に希少で人気が高いバージョンのひとつと言える。補足として説明しておくと、今回のWGと前述したPGモデルはどちらも150本限定のナンバーが振られているが、この150本という数は、すべてのゴールド製PLM(さまざまなタイプとダイヤルの組み合わせ)を含む総製造本数を指している。フィリップスによると、その内訳は以下のとおりだ。
フィリップスによると、WG×ブルーダイヤルの組み合わせがオークションに登場したのは過去に1度だけで、私も11年前に取り上げている。いやはや、ずいぶん長くやってきたものだ。
とにかく、今回の推定価格は15万〜30万スイスフランだ。詳細はこちらから。
トゥールビヨンPLMの価値と収集性に関する簡単な考察
ここまで読んで伝わっているかもしれないが、私はこれらの時計の価格動向を常に細かくチェックしている。すべてのモデルでだ。YGモデルも例外ではなく、C24(Chrono24)で今まさに3本出ているものの、通常は簡単には手に入らない。最近では価格が大きく変動しており、今の市場は売り手の希望価格と買い手の提示価格の差が非常に広がっている時期だと思う。
現在の状況はほかの多くの市場と変わらない、今や存在しない市場環境にしがみつこうとする人もいれば、現実に即した取引をしたい人もいる。過去12カ月で何本か出品されているトゥールビヨン“プール・ル・メリット”の特別モデルに対して、ディーラーが40万〜50万ドル(日本円で約6160万~7700万円)の価格を付けている状況も同じだ。これら3本が売れたあとに、彼らはその価格を妥当と感じて再出品するかもしれないし、もしくは多くの人々がこの素晴らしいヴィンテージウォッチに支払いたい価格について、現実的な再評価を行うことになるかもしれない。結局、答えを出すのは時間だけということだ。
このオークションは、日本の時計収集を特集する初めてのセールで、日本独自の美意識と収集文化を反映したコレクションが集結。出品されるのは、特に日本市場向けに製造・販売された貴重なモデルをはじめ、完璧に近い状態で保管されてきた日本人コレクターの逸品、さらに、日本を代表する独立系ブランドが特別に手掛けたユニークピースなど、多彩なラインナップです。先日、東京で開催されたオークションプレビューでは、いち早く出品されるロットが披露され、その後全115ロットの詳細がオンラインでも公開されました。
ロット78: ロレックス プレデイトナ Ref.6238 − 和田 将治
今回の日本をテーマとしたオークションのなかで、特に個人的に興味を引かれた時計のひとつが、14Kイエローゴールド製のロレックス プレデイトナ Ref.6238です。この時計には、時計収集の醍醐味を再認識させてくれる、独自の魅力が詰まっています。
スーパーコピー時計このプレデイトナは1967年頃のもので、14Kイエローゴールド仕様からもわかるようにアメリカ市場向けに作られたモデルです。しかし、最大の特徴はケース(ベゼル、ケースサイド、ケースバック)とブレスレット(エンドリンク、バックル)全体に施された精巧なエングレービングです。虎と女性をモチーフにした装飾がケースバックとバックルに繊細ながらはっきりと確認できます。
また、この時計は1991年に発行された日本の時計雑誌『世界の腕時計 No.8』にも掲載されています。当時のオーナーである日本人コレクター・山中氏が、ニューヨークで開催されたナイフショーで偶然この時計を発見し、アメリカのロレックス代理店から長時間の交渉の末に手に入れたと伝えられています。このエングレービングは、ナイフの彫金で著名なイタリア人彫刻家マルチェロ・ペディーニ氏によるもので、その繊細で美しい彫刻が時計全体に施されています。
現代の時計収集における価値基準の多くは「いかにオリジナルのコンディションが保たれているか」にあります。この時計はエングレービングが加えられているにもかかわらず、全てオリジナルパーツで、素晴らしいコンディションを保っています。注目すべきは、前回のオークションでの販売価格です。この時計がオークションに登場したのは2007年のクリスティーズ「Important Watches」セールで、78万7500香港ドル(当時のレートで約1150万円)で落札されました。驚くべきことに、同オークションで出品されていた他のデイトナモデルよりも、このエングレービングが施されたプレデイトナが最も高い価格で落札されていたのです。参考までに、ポール・ニューマン デイトナ Ref.6239は63万1500香港ドル、金無垢のRef.6263は54万7500香港ドル、スティール製のRef.6263は42万7500香港ドルで落札されています。驚くべき金額で新たな日本人のオーナーへと渡り、今回このTOKIウォッチオークションに登場したというわけです。
時計の価値が「オリジナルであること」に大きく偏っている現代の収集基準において、このプレデイトナは、時計収集という趣味が本来いかに自由で、個人の感性に委ねられているかを思い出させてくれる存在です。エングレービングが施されたこの一本は、当時のオーナーが自身の美意識と価値観で時計に新たな物語を刻んだ証であり、収集の楽しさを改めて教えてくれるように思います。時計収集は、必ずしも「オリジナル」にこだわるだけでなく、こうした個性や物語が加わることで、一層深みのある楽しみ方ができるのだと感じさせてくれます。
エスティメートは16万〜31万香港ドル(約470万〜784万円)です。ロット78の詳細はこちらから。
ロット80: ルクルト Ref. E2643 − 関口 優
僕は個人的に手巻きクロノグラフが自分のコレクションにおいて、今後重要だと感じるようになった。それは、程よいサイズ感で時計とのインタラクティブ性も持ち、少しだけアクティブな気持ちで着用できるものだからだ。ただ、現行品を見渡すと、オメガのスピードマスターですら100万円を超え、一般的に「手巻きクロノ」が代名するものはハイエンドなウォッチメイキングのことになってしまったことに気づく。その矢先に本オークションのプレビューで目に飛び込んできたのが、このヴィンテージクロノグラフなのである。
このルクルトは、1960年代に発表された珍しいダイバーズ・クロノグラフで、アメリカ市場向けに開発されたためLeCoultre銘がプリントされている。ダイバーズ、と言ったが、ワールドタイム、テレメーター、60分積算計のみっつのベゼルが付属するため、持ち主の好みによってはいかようにもその表情を変えてくれると思う。シャーク・ディープシー(欧州向けのものはヴォーグ・クロノグラフと呼ばれた)という名の本機は、バルジュー72をベースとして2万1600振動/時にアップグレードされたバルジュー726を搭載。オーセンティックな手巻きクロノグラフの味わいを十分に味わわせてくれる。
確かに、時計を実用品としても捉えるなら自動巻きの方が圧倒的に便利だし、現代の時計メーカーが新作を開発するなら当然のようにそれをベースにするだろう。わざわざ手巻きベースのものを開発するメリットは、おそらく多くの人にとって皆無だ(メーカー側にも買い手にも)。ただ、それはおそらく今後、それほど多くの手巻きクロノグラフは市場に現れず、ハイエンドウォッチメイキングを表現するジャンルであり続ける可能性が高いということでもある。僕は単純にこれらのスタイルが好き-計器っぽさがあって無骨なのに、薄型を目指しエレガントなデザインが与えられることが多い-なこともあるが、コレクタブルな対象として、まだ野放しにされている分野であることからも注目に値すると考えている。
ここ数年、「時計」熱に浮かされてきた我々にとって、少し目先を変えることも大切だ。現実的な自分の予算で、時計を探求するという本来的な楽しみは、(例えば)このルクルトのような手巻きクロノグラフが教えてくれるだろう。
エスティメートは5万5000〜9万5000香港ドル(約100万〜186万円)です。ロット80の詳細はこちらから。
ロット40:セイコー 天文台クロノメーター検定合格モデル − 佐藤 杏輔
気になるロットはほかにもいくつかあった(ロット15のFRAGMENT DESIGN × BAMFORDのRef.114060カスタムやロット82のRef.6263 “ビッグ・レッド”デイトナなど)が、結果がどうなるかということに関して最も注目しているのはロット40のセイコー 天文台クロノメーター検定合格モデルだ。
セイコーは1964年に、日本の時計メーカーとして初めてヌーシャテル天文台コンクールに第二精工舎(現セイコーインスツル株式会社)と諏訪精工舎(現セイコーエプソン株式会社)の2社が機械式腕時計部門に参加した。初年度こそ結果は振るわなかったものの、わずか3年後にはトップ10に食い込むほどの急速な進歩を見せた。コンクール(ヌーシャテル天文台での)自体は1967年を最後に終了となるが、天文台でのクロノメーターテストと認定は継続して行われ、セイコーは1968年に100個のCal.4520(セイコー初の手巻き10振動ムーブメント)をクロノメーター認定のために提出し、うち73個が無事認定された。その後も69年と70年の2年間で153個が検定をパス。こうしてセイコーでは、計226個の天文台クロノメーター認定を受けた。
驚くべきはセイコーがこの天文台クロノメーター認定を受けたキャリバーを用いて検定合格モデルとして市販したことだ。この天文台クロノメーター検定合格モデルのなかでも、1969年に最初に認定を受けたムーブメントを用いて73本だけ発売されたモデルには、特別調整したCal.4520をそのままの番号で搭載した(前期モデル)。一方、これ以降に発売されたモデル(後期モデル)にはCal.4580のナンバーが与えられた。ロット40は1970年に発売されたCal.4580を搭載する後期モデルだ。
天文台クロノメーター検定合格モデルは希少なモデルではあったものの、評価していたのは基本的には国内のコレクターやディーラーたちであり、正直なところ、世界的に認められていたモデルとは言い難かった。だが、近年の海外におけるグランドセイコーのブランディングが成功したことをきっかけに、日本の時計ブランドの存在感はかつてないほどに増している。実際のところ、世界のコレクターたちのあいだでセイコーはどれほど注目されているのか? 歴史的にも貴重なこのヴィンテージモデルが、一体どのような結果を見せるかによって、その本領が見えてくるのではないかと思っている。
エスティメートは16万〜31万香港ドル(約320万〜600万円)です。ロット40の詳細はこちらから。
ロット13: オメガ スピードマスター プロフェッショナル “ゴールデン・パンダ” − 牟田神 佑介
今回の「TOKI -刻- ウォッチオークション」の全ラインナップを見てみると、ロレックスにこそ及ばないもののオメガがかなり豊作だった。個人的には今なおカルト的な人気を誇る“ウルトラマン”や世界初のアナデジクロノグラフウォッチである“クロノクォーツ”にも食指を動かされたが、せっかくの日本に焦点を当てたオークションということでこんなモデルをピックアップしてみた。それがこの1997年に日本限定で40本限定製造されたスピードマスター プロフェッショナル、通称“ゴールデン・パンダ”である。
金無垢のケースにパンダダイヤル、ブラックベゼルを持つこの“ゴールデン・パンダ”は、製造本数だけでなくそのルックスからも非常に希少性が高い。2016年のクリスティーズ オークションではシリアルナンバー17が2万〜3万ドルのエスティメートに対して3万5000ドル(当時のレートで約420万円)で落札、2023年に開催されたPHILLIPS時計オークション:XVIではシリアルナンバー1に25万〜55万香港ドルというエスティメートが設定され、最終的に30万4800香港ドル(当時のレートで約548万6000円)で販売されている。上記どちらの時計もダイヤルに一点の染みもない非常に保存状態のよいものであったが、今回出品される個体のコンディションもそれに勝るとも劣らない。ケースにほのかに見られる金焼けが美しく、目立つ傷もない。裏蓋の刻印もはっきりと残されており、“LIMITED EDITION”と“16/40”のシリアルがこのモデルの特別さを主張する。
特別なシリアルにこだわりがあるという人を除けば、今回の出品は希少な“ゴールデン・パンダ”を比較的お値ごろなプライスで落札できるチャンスだろう。付属品も、ボックスに加えて高島屋新宿店と書かれた国際保証書に取り扱い説明書、カードホルダーまで揃っている。個人的には、このモデルが2020年に惜しまれながらもその歴史に幕を下ろしたCal.1861を使用している点もポイントが高い。
しかしやはり選んだ1番の理由は、そのルックスだ。ベゼルのブラックインサートとゴールドケースの組み合わせは、グロッシーで大人っぽい。ブラックのアウタートラックも、ホワイトダイヤルの隙間を埋めて全体をグッと引き締めている。この取り合わせは、少なくとも僕が探した限りではこのモデルのみでしか確認できていない。エスティメートが同額のロット58“ウルトラマン”のほうが知名度は高いだろうが(最近ではムーンスウォッチでもオマージュしたモデルが登場している)、個人的にはその希少性の高さも含めこちらをプッシュしたい。
エスティメートは15万〜30万香港ドル(約276万〜552万円)です。ロット13の詳細はこちらから。
ロット46: クレドール GCBY997 − 松本 由紀
今回選んだのは、セイコーのラグジュアリーブランド、クレドールだ。トップロットや、価格の動きが気になるインディペンデントウォッチも気になったけれど、最終的には“機能はシンプルに、デザインは派手に”という自分のモットーに従い、いちばん好きなデザインの時計を選ぶことにした。
このクレドール Ref.GCBY997には、派手さと洗練さが見事に同居している。2針のシンプルな機能と、美しい陶磁器ダイヤルが組み合わさっていて、特別な存在感がある。
文字盤は流星螺鈿(らでん)をテーマにしており、漆黒の夜空に輝く流星群を思わせる。その幻想的な風景は、漆芸家・田村一舟氏の手によるもので、厚さわずか0.2mmにカットされた螺鈿細工がひとつひとつ丁寧に敷き詰められている。星空のように煌めく螺鈿細工は、色合いもすべて異なり、見ているだけで引き込まれる。この圧倒的な美しさと職人技が光る文字盤は、デザイン重視の自分にとって理想的だ。
搭載されているのは、厚さ1.98mmの超薄型手巻きムーブメント、Cal.68。1日にたったふたつしかつくれないほどの高度な技術が必要なムーブメントで、パーツは100分の1mm単位でカットされている。精巧な装飾が施され、職人たちの手で最高水準に仕上げられる。
このクレドールは、ほかに出品されているヴィンテージモデルやユニークピースとは違い、比較的新しい60本の限定モデルだ。ただ、時を重ねた名作に負けないほどの存在感があるのがいい。まさに自分のモットーを体現する1本で、コレクションに加える価値があると思ったのだ。
さらに、このロットは最低落札価格なし(ノーリザーブ)で提供される。競りが始まると、どんな金額であっても最高入札額がそのまま落札価格になる。そのため一瞬の判断がカギになるものの、思いがけない価格で手に入れるチャンスがある...入札してみようかな?
エスティメートは3万〜6万香港ドル(約59万〜118万円)です。ロット46の詳細はこちらから。
パテック フィリップが25年ぶりの新コレクション発表に続き、再び注目を集めている。今回の話題はブレスレット一体型のステンレススティール製スポーツウォッチである。2006年に登場したSS製Ref.5711 ノーチラスは、それ以来ヘッドラインを独占してきた。このモデルは10年にわたる長いウェイティングリスト、スーパーコピー時計製造終了、さらに1年限定のグリーンダイヤルやティファニーブルーのダイヤルで2度の“凱旋”を果たし、その終了プロセスがむしろ人気を加速させたといっても過言ではない。
Patek 5711/1500A
本日、時計コレクターたちの背筋を震わせる5711という文字列が再び響きわたることとなった。SS製Ref.5711が今回限りで復活したのだ(おそらく本当に最後の登場となるだろう)。今回復活を果たしたのは、手彫り装飾が施された特別仕様のRef.5711/1500Aである。これはパテック フィリップが1点ものとして製作し、2024年11月25日に開催されるチルドレン・アクション・ガラ(Children Action Gala)でオークションに出品される予定だ。
チルドレン・アクションは、1994年にスイスの起業家ベルナール・サブリエ(Bernard Sabrier)氏によって設立。ジュネーブを拠点とするこの財団は、世界中の貧困に苦しむ子どもたちの生活を改善することを使命としており、これまでに21万5000人以上の子どもたちを支援してきた。チルドレン・アクション・ガラは2年に1度開催される資金調達イベントであり、財団のプロジェクトを支援するための厳選されたオークションアイテムが出品される。そのなかには時折、きわめて重要な時計が含まれることがある。
Patek 5711/1500A
2005年以降、パテック フィリップはチルドレン・アクション・ガラのオークションで1点ものの特別な時計を提供し、チルドレン・アクションを支援してきた。これまでに提供された時計には、2007年のRef.6000T カラトラバ、2009年のRef.5180T スケルトン、2012年のRef.5131J ワールドタイム、2015年のRef.5396T 年次カレンダー、2018年のRef.5524T カラトラバ・パイロット・トラベルタイム、そして2022年のRef.5270T 永久カレンダー・クロノグラフなどがある。これらはいずれもチタンケースや、文字盤に特別な仕様が施された1点ものであり、チルドレン・アクション・ガラに出品されたパテック フィリップの時計が毎回驚異的な価格を記録するのも不思議ではない。それぞれのリファレンスのなかでも最高額となっており、特にRef.5270Tは2年前に970万スイスフラン(当時の相場で約14億3070万円)で落札された。今回のRef.5711/1500Aがこの名誉を手にするには、650万3500ドル(日本円で約9億9480万円)を超える必要がある。とはいえこれらの高額落札はすべてよい目的のために使われている。
今回のRef.5711が本当に最後のSS製モデルとなるのか、憶測が飛び交うことは間違いない。しかし時計そのものの魅力に目を向けると、パテック フィリップのふたつの側面が巧みに融合した実に興味深いモデルであることがわかる。今日の時計業界において、伝統的なスイススタイルの時計製作と、現代的なラグジュアリーウォッチの両方で成功を収めるブランドはほとんど存在しない。そのなかでパテックは、トップレベルでこの微妙なバランスを保ち続けている。たとえばRef.5260/1455R アクアノート・ルーチェ“レインボー”のような新境地を開拓しつつ、Ref.5160/500R レトログラード日付表示針付永久カレンダーのように、歴史を尊重したモデルも発表している。
5711/1500Aのケース、ベゼル、ブレスレット、ケースバックには“マオリ風”のモチーフが手彫りされている。この彫刻スタイルはニュージーランドのマオリ族をほうふつとさせるものであり、パテック フィリップにとって新しい試みであるが、その全体的なデザインは5160/500RやRef.6002R スカイムーン・トゥールビヨン、そして伝説のRef.5175R グランドマスター・チャイムにも通じるものがある。工芸の観点から見ると、このような手彫りの装飾はパテックがハイコンプリケーションモデルで何度も採用してきた技法である。今年のチルドレン・アクションのために製作されたこの5711は、手彫り装飾が施された最初のノーチラスであり、同社初のスポーツウォッチやSS製ウォッチとしても同様に、初の試みとなる特別なモデルである。
Patek 5711/1500A Cufflinks
パテック フィリップ Ref.205/9057A-010のカフリンクス。
このユニークノーチラスの文字盤はダークグレーで、わずかにブラウンのニュアンスが含まれている。また時計には手彫りが施されたカフリンクスも付属する。このダイヤルカラーは公式には表記されていないが、カフリンクスについては“チャコールグレーのサンバーストセンターとブラックグラデーションの縁”を特徴としていると記されている。
2024年のチルドレン・アクション・ガラは、財団設立30周年を祝う特別な夜となり、そのなかで5711/1500Aが史上最も高額で落札されたノーチラスとなる可能性に挑む。オークションはフィリップス・バックス&ルッソのオーレル・バックス(Aurel Bacs)氏がライブで進行し、全収益はチルドレン・アクションに寄付される予定だ。同財団の運営モットーである“最初の人権は、子ども時代を持つこと”に基づき、世界中の子どもたちの支援に活用される。
オーデマ ピゲは外装の内製化を推進してきた。そこにはダイヤルもむろん含まれ、優れた質感と多彩なカーリングで個性を確立している。
ファンにはお馴染みのメガタペストリーダイヤルが、かつてないスモークディープレッドに染まった。この「ロイヤル オーク オフショア ダイバー」の新色ダイヤルは、日本からの要望で生まれたのだという。中央付近では艶感があり、最外周ではほぼブラックとなるディープレッドのグラデーションは、ダークチェリーのよう。ダイビングスケールを刻む逆回転防止インナーベゼルも、同色のツートンでコーディネート。新たなダイヤルの色表現に挑んだ日本限定モデルは、ケースはホワイトゴールド製、ベゼルはブラックセラミック製とし、リューズトップと針、インデックスにはピンクゴールドをあしらうことで、華やかなラグジュアリー感と頑強な印象との融和が巧みに図られた。
オーデマ ピゲスーパーコピー代引きロイヤル オーク オフショア ダイバー 42mm Ref.15720CN.OO.A002CA.02 984万5000円(税込) 日本限定100本
18KWGケース&ブラックセラミックベゼル。42mm径、14.3mm厚。30気圧防水。自動巻きCal.4308(2万8800振動/時)、パワーリザーブ約60時間。
オーデマ ピゲの色表現に息づく哲学とは
1993年に生まれた「ロイヤル オーク オフショア」は、1998年のチタン採用を皮切りに、オーデマ ピゲによる素材の実験場として機能してきた。その後、セラミック、ラバー、フォージドカーボンなど、彼らが用いた素材は多岐に渡る。それはダイヤル表現においても同じだ。1996年にはレッド、イエロー、グリーン、パープルといった、メゾンにそれまでなかったビビッドなカラーリングも登場。2001年にはエンボス加工が初導入され、現在のメガタペストリーが実現された。
現行の37mmの“オフショア”のダイヤルパターンには、ギヨシェによるグランドタペストリーとエンボス加工を施したレディタペストリーを展開。またライトブルーやサーモンピンクといった、かつてあったビビッドな色調が復活する兆しを見せている。一方で、楽器用アンプのイコライザーを模した“ミュージック エディション”のような大胆なダイヤルも登場している。多様なダイヤル表現は、内製化を進めた結果、実現することが可能になった。一部の特殊なダイヤルを除いて大半が自社製となったことで、コストを考慮することなく、納得が行くまで試作を繰り返すことができるようになったからだ。今回の日本限定のスモークディープレッドダイヤルでも、かなりの数の試作品が作られたという。
グラデーションダイヤルは近年、その数を増やしており、バーガンディダイヤルもまた然り。しかし、この日本限定モデルほど深い赤が黒に移ろうような色表現は今までなかった。これをダークチェリーのようだと前述したが、実は黒みを帯びた赤は飛鳥時代から高貴な色として使われてきた色で、深緋(こきひ)、黒緋(くろあけ)などと呼ばれる伝統色である。それをグラデーションに仕立てることで、日本人が好む控えめな華やかさが表現された。
“オフショア”を含むロイヤル オークコレクションのダイヤルは、長らくメッキやガルバニックによる着色が多用されてきた。前に述べた、1996年に登場したビビッドカラーのダイヤルは数少ない例外で、ラッカー仕上げであった。ラッカーが少なかったのは、タペストリー装飾の立体感を損なうからであったが、日本限定の“オフショア ダイバー”もそうであるように、近年はラッカーによる色表現が盛んに試されるようになっている。
オーデマ ピゲによれば、どのラッカーダイヤルも8層以上塗料を重ねているとか。グラデーションとなれば、層の数はさらに増す。それでもなお、メガタペストリーの繊細で上質な仕上げが見て取れるのは、予想するにエンボス加工の深さをコントロールしているからであろう。これも内製化の、賜物の1つだ。
そしてすべてのカラーダイヤルは、酸化や紫外線による色褪せを防ぐためラップ塗装を施している。しかしその厚みは、おそらくかなり薄い。他社では、凹凸模様を埋めるほどにラップ塗装を厚く施す。インデックスやロゴをプリントする平滑面を得るためだ。しかし“オフショア”は、植字インデックスである。またAPマークを配する部分と、“オフショア ダイバー”だけに配される300m/1000ft AUTOMATICのプリント文字のスペース分は、最初から平滑に作られている。これによってグランドタペストリーを埋めるほどラップ塗装を厚くする必要がなく、美しい装飾と色表現を邪魔しない。
ロイヤル オーク オフショア日本限定を見る
優れた文字盤を作るには自社で完璧にコントロールする必要がある
来年、創業150周年を迎えるオーデマ ピゲは、長い歴史において顧客のオーダーに応えた1点もののダイヤルを作り続けてきた。優れたダイヤルメーカーとタッグを組み、また2000年以降は内製化を進め、さまざまな表現が試みられてきた。内製化のきっかけとなったのは、2000年のリシュモングループによる、ダイヤル会社スターン・クレアシオン社の買収劇だった。同社とオーデマ ピゲとの長い信頼関係が、ここで崩れ、その後10年をかけてダイヤル内製化の設備と人材を整えたのだ。その中には、プチタペストリーを織り成すギヨシェマシンと、その技術者も含まれる。
幸いにも、メゾンにはダイヤルメーカーと協業した時代の膨大な資料が残っていた。そこからダイヤル製造のノウハウと、色やデザインに関する哲学を継承。また内製化によって前述したエンボス加工、さらにPVDも導入された。
今年登場した限定モデル「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー “ジョン・メイヤー”」の、方向・サイズがランダムな無数の突起が光を乱反射するクリスタルスカイダイヤルは、エンボス加工とPVDによる産物である。昨年、「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」初のSSモデルで試みられたエンボスダイヤルは、ギヨシェ職人ヤン・フォン・ケーネルの手彫りを原型とする。またアニタ・ポルシェのエナメル工房にダイヤル製作を委ねた限定モデルも生まれている。
内製化と、外部の才能とが組み合わされ、メゾンのダイヤル表現は無限に広がる。そしてユニークピースのオーダーや各国からの特別仕様の要望に、今も柔軟に応えている。
“オフショア”のレギュラーモデルにおいても、2021年に、新たなメガタペストリーのモチーフが生まれている。各スクエアを十字の“ミニアーム”でつなげ、さらに縦方向のスネイルパターンを加えて、模様を一段と複雑にしたのだ。この新メガタペストリー誕生に伴い、グラデーションも初めて試みられた。装飾とカラーリングの進化によって、表情は一層ニュアンス豊かになった。
上の2つは、新メガタペストリーとグラデーションとを受け継ぐ新作。右のスモークブルーも、左のスモークブロンズもラッカー仕上げであり、繊細な色の移ろいを表すために10層以上が塗り重なる。しかしスクエアよりも浅く繊細な縦方向のスネイルパターンがクッキリと目にできるのが、見事である。ダイヤルの内製化を進めて、およそ四半世紀。オーデマ ピゲのラッカー技術は、驚くほどの高みに至った。
AP オーデマ ピゲ公式サイトを見る
ロイヤル オーク オフショア オートマティック 37mm
オーデマ ピゲはまた、ガルバニックやメッキ技術も研鑽してきた。前述したように、ロイヤル オーク ファミリーのダイヤルに多用してきたからである。その技術が、上の新作「ロイヤル オーク オフショア オートマティック」に結実した。
ケース径は37mm。ダイヤルは、グランドタペストリーのギヨシェであり、その表面は針が写り込むほどに完璧なポリッシュに仕上げた上から、ロジウムメッキを施している。しかも元来は銀白色であるロジウムが、ほのかなアイボリーの色合いを浮かべているのが、不思議だ。その技術的なアナウンスは一切されていないが、鏡面状に輝くアイボリーダイヤルは、これまでになかったまったく新しい表現である。
グランドタペストリー装飾の上に載るAPロゴは、植字。ピンクゴールド製の針と植字インデックスには、白いスーパールミノバが載せられ、淡いアイボリーと絶妙にカラーコーディネートされている。ダイヤルも針もインデックスも光に輝くが、色のコントラストで視認性は失われない。インナーベゼルはグレーとし、象徴的な八角形ベゼルをグレーラバーでコートして、ダイヤルとは一変、色と輝きをなくしたことで全体をグッとシックな雰囲気に寄せた。
オーデマ ピゲのダイヤル表現は、時計としての機能を失うことなく美を追求し、身に着ける人が主役になるよう配慮されるのだ。
ジャガー・ルクルト、ロンジン、チューダーなどのブランドで見られるように、ヴィンテージモデルにインスパイアされたデザインが今人気沸騰中だ。特にオメガは過去の素晴らしいデザインアーカイブを生かすことに優れている。オメガが2014年に発表したシーマスター 300 マスターコーアクシャルは、間違いなく最も期待された作品のひとつであり、ノスタルジアの波に乗るだけでなく、ダイバーズウォッチの揺るぎない人気も獲得している。レトロなスタイリングとサイズ感、そしてオメガの最新技術が完璧に融合したこのモデルは、皮肉屋な時計ファンをも虜にしてやまない。我々は最近(掲載当時)、長期にわたるレビューのため、米国に初めて届いたシーマスター 300を手に入れ、その性能を確認するためかなり過酷な条件下でスキューバダイビングを敢行した。
この新しいモデルを詳しく潜り込む前に、その系譜を振り返ってみる価値があるだろう。1957年、この最新モデルにインスピレーションを与えた初代シーマスター 300までさかのぼろう。
すべての始まり: シーマスター 300(1957年)
初代シーマスター 300 (CK2913)
オメガスーパーコピー代引き1950年代半ばはスキューバダイビングブームの時代であり、時計メーカーもそれに応えるべくタイムピースを続々と発表した。もちろん1930年代には、パネライがロレックスのケースに懐中時計のムーブメントを組み込み、イタリア海軍のフロッグマンに着用させたが、ねじ込み式リューズと回転式経過時間ベゼルを備えた専用ダイバーズウォッチとしては、ブランパンが1953年に発表したフィフティ ファゾムスが初出である。翌年にはロレックス サブマリーナーとゾディアック シーウルフが登場し、ほかのメーカーもすぐに追随した。1957年、オメガはレースドライバー、科学者、ダイバーのために設計されたスピードマスター、レイルマスター、シーマスター 300というスポーツウォッチの “マスター”トリオを発表した。最も古い血統を持つ後者(Ref.CK2913)の初代シーマスターが発表されたのは1948年である。しかし、このシーマスターは水中での使用を想定して作られたとは言い難かった。その名に似つかわしくない小型のドレスウォッチだったからだ。
シーマスター 300は、サブマリーナーに対するオメガの回答であり、それ以来その役割を担っている。ただ名前は少し誤解を招くかもしれない。というのもデビュー当時、この時計の正式な防水性能は200mまでしかなかったからだ(オメガによれば、試験装置の限界だったそうだ)。ブロードアロー針、薄いコインエッジベゼル、ダイヤルの筆記体など、サブマリーナーよりもハンサムな時計であったことは間違いない。直径39mmのケースと愛らしい形状の針は、同時代のスピーディやレイルマスターと共通で、シーマスター 300には頑丈なオメガ自動巻きムーブメントのCal.501が搭載されていた。これら最初期のオメガのダイバーズウォッチは、同じヴィンテージのサブマリーナーよりも希少価値が高く、コレクターも多い。アクリル製のベゼルインサートは割れやすく、しばしば交換された。今思えば、この時計は素敵だったが、サブマリーナーのような人気の持続力はなく、おそらく60年代まで使い続けるにはやや“可憐”過ぎたようだ。初代シーマスター 300は、新世代に取って代わるまで、7年間のロングランを記録した。
60年代と英国海軍仕様モデル
1964年、オメガはRef.165.024(デイトなし)と166.024(デイトあり)の新生シーマスター 300を発表した。この時計は先代に類似していたが、古風なブロードアロー針や薄いベゼルは廃止され、ケース径は当時としては巨大な42mmに拡大された。この時計は、より現代的な雰囲気をまとった存在となった。幅広のベゼルは重厚感があり、ミニッツマーカーが全周にわたって配置されている。針もより頑丈になり、いわゆるソード型針が採用された。夜光は大量に塗布され、ダイヤルマーカー、10分ごとのベゼルマーク、そして巨大な針はすべて、ナイトダイビングの視認性を確保するため松明のごとく輝いた。ケースは、CK2913のストレートラグを廃し、進化したスピードマスターラインと共通のねじれた“ボンベ”ラグに変更され、リューズガードが採用された。第2世代のシーマスター 300はさらに大きな成功を収め、スポーツダイバーズとしてだけでなく軍用時計としても人気を博した。
シーマスター 300 Ref.165.024。photo credit: 1stdibs
英国海軍モデルは長いあいだコレクターに愛されてきた。最も有名なのは、女王陛下のフロッグマンたちに数十年にわたって支給された伝説的なロレックス サブマリーナー“ミルサブ”である。しかし、ミルサブを民間用と区別する特徴であるソード型針とフルマークのベゼルは、ロレックスが考案したものではなく、実はオメガからコピーしたものである。初期のRef.5512/5513サブマリーナーが英国の操舵手たちに愛用された一方で、60年代半ばには、オメガの新しいシーマスター 300が優れた潜水用ツールとみなされ、英国海軍のダイバー用として採用された。これらの時計は、溶接されたストラップバー、ケースバックの刻印、トリチウム夜光の使用を示すダイヤルの“サークルT”表記によって区別される。後期のバージョンには、12時位置のダイヤルマーカーに特大の三角形があしらわれている個体もあるが、これは民生モデルにも採用された特徴である。この軍用シーマスター 300は、ロレックスのミルサブよりも希少だが、その理由は支給期間がわずか2、3年であったからである。しかし価格はそれほど高くないため、優れたヴィンテージウォッチの選択肢となる。
シーマスター 300が英国海軍のダイバーに支給されたのは、再びロレックスに取って代わられる前の数年間だけで、後者は視認性確保のため前者の針とベゼルをコピーせざるを得なかった。ロレックスが優れていたのは防水性で、これは強力なツインロックねじ込み式リューズのおかげだった。リューズ機構はオメガのアキレス腱だった。オメガは“ナイアード(ギリシャ語で“水の精”の意)”と呼ばれる圧力密閉式リューズの実験を行っていた。理論的にはいいアイデアだったが、実装段階では信頼性が低く、ナイアード式リューズは圧力が弱い浅い水深で浸水しやすい傾向があった。オメガがレストアしたバージョンは、通常ねじ込み式リューズが取り付けられていた。
第2世代のシーマスター 300は1970年まで生産が継続されたが、ファンキーな形状、実験的なベゼル、向上した防水性など、より時代の要請にマッチした時計、いわゆる“ビッグブルー”シーマスター クロノグラフ、伝説的なプロプロフ、角ばったSHOM(海軍水路海洋局を意味する刻印がされたシーマスター200)などに取って代わられ、生産終了となった。CK2913や165.024のようなクラシックなラインを失い、初期のシーマスターとの類似性は完全に失われた。このデザインの変化とリファレンスナンバーの急増は、問題を抱えるブランドの歴史を物語っていた。オメガは1970年代の暗黒の時代に生き残るために戦っていたのである。もしオメガがシーマスター 300を1960年代と同じように生産し続けて少しずつ改良を加えていたら、かつてのライバルであるロレックス サブマリーナーと同じように、人気のある憧れの時計になっていただろうと考えるとおもしろい。
現代のシーマスターシリーズ
1970年以降、シーマスター 300の名前はカタログから消え、オメガのダイバーズウォッチは単にシーマスター プロフェッショナルと呼ばれるようになった。90年代後半になるとジェームズ・ボンドシリーズがリブートされ、シーマスターが再び脚光を浴びるようになった。新しいボンド役、ピアース・ブロスナン(Pierce Brosnan)氏に新しい時計を与えるため、007のコスチュームデザイナーであるリンディ・ヘミングス(Lindy Hemming)氏はブルーダイヤルにスケルトンのソード型針をあしらったオメガ シーマスターを選んだ。ヘミングがほかの選択肢のなかからシーマスターを選んだのは、ボンドが所属していたイギリス海軍とオメガの歴史が大きく関係している。ヘミングス氏によれば、“私が20代のころ、当時の軍人や海軍関係者たちと知り合いになったが、彼らはみなオメガを愛用していた”という。この時計はオメガに露出の機会をもたらし、シーマスターの人気を再び不動のものにした。
ボンドが着用していたのはブルーダイヤルのシーマスターだったが、おそらくボンドが持つべきだったのは同時期に製造されたRef.2254だろう。そのリファレンスは1960年代のシーマスター 300に近い外観で、ブラックダイヤル、同じソード型針、フルマークベゼルを備えていた。それでも、ブロスナン演じる派手なボンドは90年代を通じてブルーモデルを着用しており、007が元海軍軍人にふさわしいシーマスターを着用したのは、ダニエル・クレイグがボンドを引き継いだ2006年になってからだった。シーマスター プラネットオーシャンは、すぐさまかつてのシーマスター 300と比較された。ダイヤルのマーク、ベゼル、針、そしてオメガの特徴であるボンベラグがミックスされ、オメガの新規購入層やシーマスター 300のかつての栄光への回帰を切望する人々にアピールした。この時計はオメガにとって大ヒットをもたらしたが、純粋主義者にとっては、大きすぎたり派手すぎたりして、まだしっくりこないという感があった。だからこそ、2014年に発表されたシーマスター 300 マスターコーアクシャルは、まさしく待ち望まれていたものだ。それは40年かけてじっくり作られた時計のように感じられた。そしてオメガはそれを正しく世に送り出した。
シーマスター 300 マスターコーアクシャル
動作中のシーマスター 300 マスターコーアクシャル。Photo credit: Christopher Winters for HODINKEE
深さ42mほど水中の沈没した船の石炭貯蔵庫の上を旋回していたが、どうしても手首の時計に目が行ってしまった。3℃の水温によって窒素中毒が増幅されたのかもしれないが、私は突如として閃いた。これほどタイムトラベルに近づいたことはない。ここで、スペリオル湖に70年間眠っていた船を最初に発見したダイバーたちと同じように眺めているのだ。手首に機械式時計をつけ、貴重な潜水時間を計測しながら、無重力状態で遊泳する…そう、まさに1957年であったかのように。
オメガは人気の第2世代シーマスター 300を再創造するのではなく、さらにさかのぼり、初代モデルに戻ったのだ。スピードマスター“ファースト・オメガ・イン・スペース(FOIS)”で行ったように、オメガは1957年に発売された時計に忠実にオマージュを捧げている。ストレートラグ、リューズガードなし、薄いベゼルインサート、ブロードアロー針などがその象徴だ。しかし完璧なレプリカではなく、シーマスター 300マスターコーアクシャルにはいくつかのスマートな改良が加えられている。
質感の高いマットなダイヤルには、カットアウトされたマーカーがあしらわれている。Photo credit: Gishani Ratnayake for HODINKEE)
スティール製ケースはオリジナルの39mmから41mmとなった。前述のスピーディ“ウォーリー・シラ ー”は39mmサイズを忠実に再現したが、41mmはダイバーズウォッチとしてはほぼ完璧なサイズだ。ベゼルはもちろん、割れやすいアクリル製ではなく、オメガお得意のリキッドメタル製である。このアモルファス金属合金は耐食性と耐摩耗性に優れ、光沢のある外観は古いアクリルのような外観を巧みに再現している。風防は当然サファイア製だが、初代のようなドーム型形状となっている。夜光はトリチウムの代わりにスーパールミノバが使用されているが、まるで60年ものあいだ、引退したダイバーの引き出しのなかで熟成されていたかのような完璧なゴールドを帯びたフェイクパティーナだ。ダイヤルはマットなブラックで質感が高く、それがさらに経年劣化しているように見えるが、斜めから眺めると素晴らしい。CK2915のような小さな三角形のダイヤルマーカーは、ダイヤル上にプリントされているのではなく、ダイヤル下の層に挟み込まれている。さらに特筆すべきは、オメガのヴィンテージモデルへのオマージュとして、このモデルではデイト表示が省かれていることだ。
オメガのトレードマークであるケースバックにエングレービングされたシーホース(私は希望していたが)の代わりに、シーマスター 300は幅広なサファイアのシースルーバックを備え、時計のフルネームの一部である“マスターコーアクシャル”ムーブメントのCal.8400がのぞいている。透明な裏蓋からは、放射状の美しい装飾が施された自動巻きムーブメントを眺めることができる。また同ムーブメントはシリコン製ヒゲゼンマイを採用しており、軟鉄製のインナーケースを使わずとも1万5000ガウス以上の耐磁性能を実現している。この高い耐磁性をさりげなく誇示している点も特徴だ。耐磁性に加え、このムーブメントはツインバレルによる約60時間のパワーリザーブ、コーアクシャル脱進機とフリースプラングテンプを備え、クロノメーター認定まで受けている。また時計をハックしたり分針を動かしたりすることなく、時針を1時間単位で進めたり遅らせたりできる、気の利いた“タイムゾーン”機能も備えている。初期のオメガのコーアクシャルムーブメントは、ETA2892を改良したものだったが、Cal.8400はオメガの研究開発の集大成であり、現在最も優れた自動巻きムーブメントのひとつとして数えられる。
Photo credit: Christopher Winters for HODINKEE
ムーブメントとベゼルだけでなく、ブレスレットもまた1957年当時のデザインよりも、2014年の現代的な仕様に仕上がっている。無垢材のリンクを使用した3連ブレスレットには、折りたたみ式のプッシュボタン式デプロワイヤントがあり、隠し延長機能が付いている。クラスプの内側には“PUSH”と書かれた小さなレバーがあり、ブレスレットを約2.5cmほど簡単に伸ばすことができる。しっかりとつくり込まれたブレスレットはデザインも優れているが、ロレックスのグライドロック・クラスプ機構にはおよばない。私はプッシュボタン式のクラスプがあまり好きではないが、その主な理由は、何年も前にダイビング中にプラネットオーシャンのクラスプが突然開いてしまったことから不安感を抱くようになったからだ。エクステンションは厚手のウェットスーツの袖をとおすには十分な長さがなく、ドライスーツの袖口に時計を収めることができたのは、ブレスレットの長さをまったく調整しなかったからだった。ブレスレットのセンターリンクはポリッシュされており、ドレッシーでヴィンテージな雰囲気を醸し出しているが、正直ツールウォッチとしては少し不釣り合いに感じた。しかし、プールサイド以外で着用する予定のない購入者にとっては、私のブレスレットに対する不満はほとんど気にならないだろう。
パテナイズされたトリチウムの外観にもかかわらず、夜光は明るく、現代的なスーパールミノバである。Photo credit: Gishani Ratnayake for HODINKEE
オメガはシーマスター 300 マスターコーアクシャルに、SS、チタンにブルーのダイヤルとベゼル、チタンとセドナゴールドのツートンカラー、セドナゴールド無垢など、いくつかのバリエーションを展開している。私のお気に入りは私がテストしたものと同じ、神とクストーがダイバーズウォッチに求めたクラシックなSSモデルだ。ソリッドリンクのブレスレットでは少々重かったが、オメガは独自のNATOストラップの販売も計画している。それは間違いなく高品質で高価格のものになるだろう。私はしばらくテスターをNATOに装着してみたが、その見た目はデスクダイバーではなく、むしろ本物のクリアランスダイバーのように見えて素晴らしかった。
実用上の性能はどうだったのだろうか? 氷点下スレスレの深い海で4日間、8回のダイビングを敢行したが、クロノメーター級の精度を維持した。ベゼルはグリップ力があり、5mm厚のネオプレーン製手袋をはめた手で回してもその動作は素晴らしかった。視認性は申し分ないが、1964年にオメガがソード型針に切り替えた理由が分かった。ブレスレットは、今回もサイズ調整せずに使用したためサイズが合わなかったが、腕にぴったり合ったサイズに調整した場合、袖の上から使用するにはクラスプの延長が足りなかったかもしれない。全体としてこの時計はよくできており、60年前のデザインにもかかわらず今でも立派な潜水時計である。
リキッドメタルのベゼルインサート。Photo credit: Gishani Ratnayake for HODINKEE
シーマスター 300 マスターコーアクシャルには“悪い”点を挙げることはほとんど不可能に近い。フェイクパティーナのマーカー(私は気に入っている)やポリッシュ仕上げのセンターリンク(私は好まない)、シースルーバック(私はソリッドバックのほうが好み)が気に入らない人もいるだろう。しかしこれらはすべて些細な違いである。この時計はホームラン(クリケットファンにとっては“6”)に限りなく近い。ジャガー・ルクルトのヴィンテージトリビュートモデルやチューダー ブラックベイと同じ条件を満たしているが、耐磁ムーブメントを搭載することでさらに1歩進んでいる。6600ドル(2014年当時の定価。日本の定価は税込74万8000円)と決して安くはないが、かつてのライバルであるサブマリーナーよりも安価でありながら、同等の品質を備えている。レトロなデザインは、大衆よりも歴史を知るごく一部の時計マニアに評価されるものであり、プラネットオーシャンに引かれる人はまだ多いだろう。しかしオメガは自らの歴史を尊重し、それを効果的に活用することを好むブランドのひとつである。シーマスター 300 マスターコーアクシャルは、その最新の証拠である。
2017秋季四国選手権A級大会が雨天順延になりましたので、
マイナー大会の抽選会は、A級大会決勝戦終了後に、
えひめグランドでおこないます。
(1)理事会およびMLBカップ抽選会について
4月29日(祝) 午後1時 北条文化の森
(2)全日本選手権四国大会について
4月30日(土)からに変更
8月15日 午後1時 テレビ愛媛
(6月22日の案内文書を確認し出席してください)
日時 1月12日(祝)8時30分〜10時 受付開始8時10分
場所 西条市ビバ屋内グラウンド会議室
講師 日本協会 規則・審判部会長 青木秀明氏
講話 「試合に臨むにあたっての心構え」
(筆記用具持参、A級監督不在の場合は代理を)
11月29日(土)に予定していたザバス栄養講習会は
先方の都合により、2月7日(土)に変更となりました。
(時間、場所の変更はありません)
四国連盟・総務